工業高校や中小企業に熟練技能者を仲介・派遣

埼玉県立三郷工業技術高校で実技指導を開始した

 JAMは結成以来産業政策に取り組み、中小・サプライヤーの単組が多く参加している組織であることから「公正取引(優越的地位の濫用の防止等)」と「ものづくり基盤の再構築(ものづくり人材の育成等)」をその大きなテーマに据えてきたが、2011年5月から、ものづくり人材の育成に関連してJAMの新たな事業として「熟練技能の継承」に取り組むこととし、JAMの組織内に「熟練技能継承推進室」を設置。生徒や従業員の技能向上を図りたい工業高校や中小企業に高度熟練技能者を仲介・派遣し実技指導することにした。

 5月2日からは、埼玉県立狭山工業高校へ高度熟練技能者を派遣し、技能検定チャレンジへ向けて課外授業による指導を開始。事業を本格稼働させた。

 機械金属産業は、新興国のコスト力や技術力の伸長により厳しい国際競争にさらされているものの、これまで蓄積してきた「熟練技能」を核とする「ものづくり基盤技術」で依然としてわが国経済を支える基幹産業である。

 しかしながら、機械金属産業の基盤を支える中小企業の多くは、資金繰りや仕事の確保など、目の前の経営課題を優先せざるを得ず、社内で技能継承を行う体制は整っていない。また次世代を担う若年層では、ものづくり離れや技能離れも見られ、学校教育段階で技能を身に着け機械金属産業に入社してくる若者も減少している。
 一方、機械金属産業を核として経済成長を果たそうとする新興国では、日本の「熟練技能者」は垂涎の的であり、そうした国の企業では高い地位・高額な報酬でわが国の熟練技能者を招聘する動きが見られ、実際に新興国企業に活躍の場を見出そうとする熟練技能者も少なくない。
この様な状況を放置すればわが国の「熟練技能」は衰退し、機械金属産業の国際競争力低下に拍車をかけることになる。

 熟練技能継承の課題に厚生労働省では「ものづくり立国推進事業」の一環として、「熟練技能人材登録・活用事業」を1998年度より立ち上げ、「中央職業能力開発協会」と各都道府県の「職業能力開発協会」に委託し、高度な技能に加え優れた指導力を有する熟練技能者を「高度熟練技能者」と認定した上で、工業高校や、中小企業に派遣し、実技指導を行ってきた。
 しかし、多くの工業高校に活用され、評価されてきたこの事業は、諸般の事情から2009年度をもって廃止されてしまった。

 JAMは、この事態を深刻に受け止め、事業の復活に向け政府・民主党や厚生労働省に働きかける一方、労働運動の新しい分野として捉え、自ら技能継承事業に取り組む事を決断した。
 具体的には、JAMの組織に「熟練技能継承推進室」を立ち上げ、この推進室が、生徒の技能向上を図りたい工業高校や、従業員の技能向上を目指す中小企業に、熟練技能者の仲介と派遣を行い、実技指導を行う事により、ものづくりの楽しさを伝え、技能の継承を図るもの。

 当面(2011年度)は、関東・東海・近畿に拠点を設置し、生徒・従業員の技能向上(その証として技能検定の合格向上を目指す)に取り組む工業高校・中小企業に、年間述べ400日間、機械金属産業に関わる職種の高度な技能・指導力を有する熟練技能者を派遣し実技指導を行う事を予定している。

 一方、厚生労働省は、2011年度ものづくり立国の推進事業として「業界等が取り組む熟練技能者を活用した技能継承の支援・促進」に取り組み、その事業を「業界等」に委託する事になり、同年3月に行われた企画競争の公募の結果、JAMは前述の事業を以てこの企画競争に参加し、相応しい企画として認定され事業を受託する事となった。

 これまで労働組合の「産業政策」とは、一企業の労使では解決できない産業に関わる課題について、政策を検討した上で国や自治体に要請する事が中心であった。
 今回の取り組みは、自らが望む政策を自らが主体的に取り組むという事で、JAMにとっても大きなチャレンジであり、事前の工業高校等への調査では、この事業に大きな期待が表明されている。
 JAMはこの様な期待に応えられる様、人材・資金を投入し、懸命に取り組んで行くことにしている。

JAMの熟練技能継承事業の紹介ビデオ (92MBあります)

埼玉県立大宮工業高校で指導 吉田 熟練技能者 (旋盤)
     
「どうすれば」を一つひとつ解説 精度は出ているかな
埼玉県立狭山工業高校で指導 新井・生井・岸 熟練技能者 (旋盤、フライス盤、鋳造)
問題点の指摘と改善策を伝授する新井熟練技能者 生徒の作品をすべて計測し弱点をつぶしていく
マイクロメーターの使い方を指導する生井熟練技能者 鋳造の鋳型製作を指導する岸熟練技能者
あ〜そうだったのかぁ〜 おっ、うまいな中央値が出ている 思わず笑みをこぼす新井熟練技能者


 本事業に関するお問い合わせは、JAM熟練技能継承推進室の菊池正範・宮本信・清水宣行まで 
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電話:03-5860-6150  FAX:03-3451-2446