日本のものづくり力を強くする政策の実現へ


働く者の暗黙知が財産

政治主導で、世界で勝ち抜ける施策を


 日本のものづくり力を強くする政策の実現に向けてJAMものづくりシンポジウムが2月6日、東京で開かれ、180人が参加した。ものづくりの底力は独創性にあるなど「『すごい日本のものづくり』~今、何が変わろうとしているのか」をテーマに神戸国際大学経営学部教授の中村智彦氏の基調講演や、「これからの日本のものづくり政策」をテーマにしたパネル討論で、縦割りの官僚にはできない、政治主導で世界で勝ち抜けるものづくりへなど政策・方途を討論した。

河野和治JAM会長
 冒頭のあいさつに立った河野和治JAM会長は、「ものづくり基本法」制定から、2~3年に一度日教組と共同して開いているものづくりシンポジウムや、基礎技術を中小企業に活用してもらうための取り組み、取引の適正化の取り組みなど、これまでのものづくりへの取り組みを紹介しながら、比較的賃金の高い高度熟練技能工が減り、賃金が安く企業の都合で雇ったり辞めさせたりできる人が増えた結果、現場でものを考え改善していくという〝現場力〟が大幅に低下していると指摘。

 今後、環境や航空などの新しい分野への対応していくためにも今春闘の取り組みの中で賃金交渉とは別に、将来の高度熟練技能者の育成について話し合いをしっかりやってもらいたいと述べた。
 

基調講演


底力は独創性。「うちの取り柄」を

中村智彦氏 (神戸国際大学経済学部教授)

中村智彦教授
中村氏の講演では、日本のものづくりについて次のように述べられた。
 日本のものづくりの底力は独創性にある。何かをつくっていくこと、つくり出していくこと、時代に合わせて変化をしていく。それから完璧によりよいものを時代に合わせて改良していくというのが強さのはずだ。

 そこのところを少し最近忘れているのではないか。 企業が生き残っているのは強みがあるから。従業員も一緒になって「うちの取り柄は何だろうか」とやっていかないとこれから生き残れない。

 現場の皆さんは知っているが、営業サイドはぜんぜん知らない。営業サイドの希望が現場に届いていない。ではできないのかと言ったら、できることは沢山あるはず。その辺をもう一度見直して、攻めて行かないと、どんどんしぼんでいく。

 イタリア製の洋服というと皆さんありがたがって買いに行く。イタリアと日本の人件費はそんなに変わらない。でもイタリア製の洋服だったら買いに行く。コピー商品をつくっていた大阪のファッションは買わない。ここから何か学び、日本のものづくりを元気にしていただきたい。
 

パネル討論

 日本のものづくりの強さは、安定した雇用に立つ従業員の暗黙知。
製造業なくしてわが国は今の生活水準を維持できない。世界で勝
ち抜く施策は縦割りの官僚ではできない。政治主導で変えていく。


八木澤徹 日刊工業新聞
論説委員兼経済部編集委員
 日刊工業新聞の論説委員兼経済部編集委員の八木澤徹氏をコーディネーターに持たれたパネル討論では、産業構造の変革が実感を伴ってきた状況を受け次のような討論がされた。
津田やたろう参議院議員


  150円で買っているのは150円の価値があるから、「50円安い100円で作れるからうちに」はもういらない。それより「お宅の太陽光発電パネルの効率を3%上げられる技術がうちにある」「新しい素材の加工ができる」そういう話だったらどんどん電話ください。という時代になっている。

 日本のものづくりの強さは、安定した雇用関係の上に立った、従業員の暗黙知も含めた財産が強み。
 中小企業の明星電気が大手と対等、ないしはそれ以上にやれるのは、オンリーワンになるためのいろいろな技術や施策をやっているからだ。 自分のところで何かつくっていくことに努力をしないと、時代が変わってもほかのものに転換できない。

 大学と企業を結ぶ産学連携がうまくいかないのは、契約が2年~3年となっているためだ。3年程度の契約で腰を据えてというのは無理。
  地域の企業を結び付けていくため、行政は専属の人を置いて、地域の中で根を下ろして活動していかないとダメ。

  製造業なくしてわが国は今の生活水準を維持できない。そのもの作りに対して国がどのくらい本腰を入れて、世界で勝ち抜こうとする姿勢を示しているのかというと、非
パネリスト:(右から)中村智彦氏(神戸国際大学経済学部教授)上澤信彦氏(明星電気株式会社
社長)津田やたろう氏(参議院議員)とどろき利治氏(参議院議員)河野和治氏(JAM会長)。
常に薄ら寒い感覚を持たざるを得ない。これは縦割りの官僚ではできない。政治主導で変えていくしかない。

  材料の研究やいろいろな加工技術、金型の問題などの基礎技術で中小企業を強くするために制度を新しく見直す必要がある。高度な技術は、その前にあったたくさんの技能・技術の蓄積によって可能となっている。

  人材を日本の企業の中で活かしていくことを考えないと、人材は海外へ流出していく。

  日本の基準を国際基準にしないと、他国の基準でものを作らなければならなくなる。

  会社は誰のためにあるかというと、従業員のためにある。会社が明るく楽しく元気に生き甲斐があり、一人ひとりが100%の力を出せるようにするのが経営者の仕事。

 シンポジウムの最後に斉藤常JAM書記長が、日本のものづくりの強さは、独創性、完ぺき性、高品質、勤勉、チームワークが網羅されていることと、オンリーワンという言葉の持つ強さ、これをもう一度しっかり見つめていく必要がある。また、ものづくりは政治政策の面からの関わりも大きく、7月の参議院選挙での津田やたろうをしっかり国会に送り出していく必要がある ―― と討論をまとめた。