2002年10月8日
浜松ホトニクス株式会社
代表取締役社長 晝馬 輝夫(ひるま てるお)
 
20インチ径光電子増倍管の開発経緯



 ご受賞おめでとうございます。お祝いの言葉と共に、小柴昌俊先生からのご依頼により偉大な研究実験に、弊社も参画できたことに感謝申し上げます。弊社の社員も共に喜び、人類にとって大きな仕事に参画できたことを改めて実感しています。


23年ほど前、小柴先生から大口径の光電子増倍管が必要だという壮大な実験計画を聞いたとき、研究者の熱意と気概が伝わってきました。当時は、8インチ径に着手したばかりで、大口径の製作には魅力がありましたが、それでも最後は断ろうと思っていました。ところが、先生の研究室に、宗教画が掛けられているのを見て気持ちが動きました。


 欧米の研究者には多い光景ですが、欧米においてサイエンスとは「芸術、宗教または哲学の如く絶対真理を求める人の心の動き」だとされています。人類には未だ知らないこと、できないことが無限といってもよいほどあり、サイエンスとは、この領域を追求することで、絶対真理に近づくことだと思います。


 弊社は、テレビの父といわれる高柳健次郎氏の研究室の門下生が創業しました。ラジオ放送開始の前年にテレビの研究に取り掛かるという人類未知未踏領域を追求する精神と、テレビの光電変換の技術を高柳氏から継承しています。創業以来、光と物質の相互作用についてのサイエンスを日常の業務の中で追求し、研究室の床の上でああでもない、こうでもないといいながら各分野に有用な部品を開発してきました。いつしか、フォトンカウンティングやフェムト秒領域の観測など極限計測技術が、新しい知見探求の一翼を担っています。


 小柴先生のサイエンスの心に触れ、その研究活動を支えようと、また、欧米からの輸入技術が多い日本の産業のなかで、日本独自の技術に取り組もうと、関係社員の同意も得てお受けしたことを覚えています。15年前に、超新星爆発によるニュートリノを世界に先駆けて観測に成功したニュースは、開発や製造に携わった者にとって、光電子増倍管が期待通りの性能を発揮したことの証明であり、従業員一同の最大の喜びとなりました。
昨年11月には予期せぬ事故が起こり、順調に進められていた観測実験に空白をもたらしています。1日でも早く全面復旧し、世界が注目する世紀の大発見の更なる成果を塗り替えていただきたいと思います。そして、この発見が21世紀の人類にとって役に立つ技術に応用され、日本発の新しい産業が生まれることを望みます


 
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